雅雲すくね「二つ並んだ蛸頭」―連載〈蛸親爺〉第3話

 車の音が塊となって響き続ける大通り。銀杏並木の枝に烏がとまって一つなく。乗合バスの停留所に蛸が立つ。
 蛸は頭に黒いネクタイを巻き、こめかみから垂らせている。
「たーこたーこ。たーこたーこ。来ねえバスだな。行き先違いのバスばかりだ。日曜日の四時台は時刻表に十分間隔とありますが、三十分も来ませんな」
 蛸の鼻先をトラックが車体を軋ませて去り、排気ガスが蛸の頭を滑る。
「おう。びっくりした。げほげほ。こんな所で待っていちゃ、こっちがくたばっちまうわ」
 青葉を吹かせるべき風が、街路樹の埃を払い、一枚の葉を蛸の頭に吹き落とす。
「桃見、観梅、桜狩。木もなんだな。上の方にちょぼちょぼだ。葉っぱも下の方はからきし枯れ木だな。あれも草山にでも生えたかっただろうに」
と蛸は見上げた。
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from editor

 ある日、突然タコになってしまったオッサンのゆるい日常を描く、連載小説〈蛸親爺〉第3話「二つ並んだ蛸頭」をお届けします。何とか年内に間に合いました…!
 相変わらず足腰が定まらない親爺(タコだけに)の前にあらわれたのは、もう一人の「蛸頭」。こちらも親爺に負けず劣らずぐねぐねです。「そんなでいいのかっ!?」というまじめなツッコミは置いておいて、年末ですし、ゆる〜い小説をお楽しみください!
(この連載は、ほぼ毎月の更新予定です。)

雅雲すくね(がうん・すくね)
71年生。「不二山頂滞在記」で第21回早稲田文学新人賞を受賞。脱力系の文章と奇想が魅力。6年以上の冬眠期間を経て、本作の連載開始。