2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

牧田真有子「おざなり少女と刺青の男」―連載〈泥棒とイーダ〉第2回

雨音に金属の響きがまざる。鉄のはしごを傾げたような簡潔な造りの階段を佐原さんは降りてきた。細いというよりぎゅっと固めたような瘦せ方で、芯に重みがある。薄茶色いズボンの裾をたくし込んだ黒の長靴が、私の頭の高さへ至り、太ももの位置に達し、私の…

渡邉大輔「映像圏の「公共性」へ」―連載〈イメージの進行形〉最終回・後篇

それでは、以上のような現代社会における「対抗的公共圏」や「生存のためのサンディカ」の可能性を、冒頭のVPF問題も含めた現代の映像圏システムにおいていかなる形で生み出していくべきだろうか。これは、やはり途方もない問いだというべきだし、また、…

雅雲すくね「地下鉄道」―連載〈蛸親爺〉第5話

「たーこたーこ、たーこたーこ」と蛸が午過ぎに町医者の前を行く。 口を絞って手に提げた頭陀袋は、ウイスキー瓶の形に膨らむ。頸には包帯を巻いている。 青年が医院の戸から、短い草のまじる庭の砂利を踏みつつ、開け放たれた門に下って来た。 出たところで…